年次総会、表彰式、キックオフ、方針発表会。
企業の式典を担う決裁者のあいだで、よく聞く違和感があります。
ちゃんと準備した。たとえば、
- 伝えるべきことも整理した
- メッセージも間違っていない
- 進行も滞りなく終わった
それでも、組織が動いた感じがしない。
式典や説明会のあとに残るのは、変化の手応えではなく、静かな空気です。
頷きはある。拍手もある。
しかし、何かが動き始めた感じはしない。
式典が動かないのは、メッセージだけが流れ、その場で共有される反応や納得感が立ち上がらないまま終わってしまうときです。
では、なぜ人は、正しい説明を聞いても動かないのでしょうか。
変化の初動は、理屈だけでは起きない
この問いを考えるうえで示唆的なのが、コッター氏の視点です。
コッター氏が示しているのは、変革が止まる理由は、必ずしも方針が間違っているからではない、ということです。たとえば、
- 方針は正しい
- 説明もされている
- 必要性も頭では分かっている
それでも、人は動かない。
なぜか。
変わる必要や、その意味が、まだ感情として立ち上がっていないからです。
人は、正しい説明を聞いたから動くのではありません。
コッター氏が示唆しているように、変化は理屈として分かるだけでは進まず、「見て、感じる」ことを通じて初動が生まれます。
危機感でも、共感でも、期待でもよく、重要なのは方針が理屈として伝わったことではなく、変化の意味が感じられたことです。
だから、式典や全社会議が論理を伝える場としてだけ設計されている場合、頭では分かっても、変化の初動は生まれにくい。
情報伝達だけでは、足りません。
必要なのは、変化の意味がその場で感情として立ち上がることです。
組織を動かす感情は、場の中で共有される
では、その感情はどこで立ち上がるのでしょうか。
感情は、個人の内面だけで立ち上がるのではありません。
その場で何が大事にされているのか、どちらへ向かおうとしているのかという了解と結びつくことで、はじめて組織の初動につながります。
ここで重要になるのが、伊丹氏の視点です。
伊丹氏が示しているのは、組織にとって本当に効いている了解や価値観は、必ずしも会議や文書の中だけで共有されるわけではない、ということです。
実際の行動を左右しているのは、その場の空気であり、自然に共有された感覚であることが少なくありません。
「場のマネジメント」でいえば、問われるのは場を設けたかどうかだけではなく、その場をどう舵取りしたかです。
たとえば、その場で共有されるのは、
- この方針は本気なのだ、という空気
- ここで応えることが期待されている、という手触り
- 自分たちは今、同じ方向を向こうとしている、という感覚
です。
だから式典で問うべきなのは、何を説明するかだけではありません。
参加者がどの瞬間に自分ごととして受け取り、どの反応が会場全体の手応えに変わるのか。
そこまで含めて、場をどう舵取りするかです。
だからといって、感動させればよいわけではない
ここで、よくある短絡があります。
感情が必要なら、感動させればいい、という発想です。
しかし、これは十分ではありません。
個人がそれぞれに心を動かされたとしても、その反応が組織の手応えに変わるとは限らないからです。
大切なのは、誰かが強く感じたかどうかではありません。
重要なのは、その場で起きた反応が、会場全体として「自分たちはこの方向に進むのだ」という感覚につながっているかどうかです。
バラバラに起きて、バラバラに終わる感動は、印象には残っても、組織の動きにはつながりにくい。
逆に、反応がある程度同じ方向を向いたとき、その場は「ただ見たもの」ではなく、「自分たちが経験したもの」になります。
つまりこれは、演出の好みではなく、組織をどう動かすかという判断の問題です。
まとめ
人は、理屈だけでは動きません。
組織が動き始めるには、その場で感情が立ち上がる必要があります。
そしてその感情は、個人の内面だけで生まれるのではなく、その場で共有される空気や感覚と結びついて立ち上がります。
だからこそ式典は、説明を伝えるだけでなく、場をどう舵取りするかまで含めて設計される必要があります。
問うべきなのは、その場で同じ方向の反応や手応えが立ち上がっていたかどうかです。
では、その場で共有された感覚は、どうすればその場限りで消えずに残るのでしょうか。
次回は、象徴的行動・象徴的瞬間という視点から、その場の経験が、なぜ組織の記憶として残るのかを考えます。
Q1. なぜ企業の式典では、正しいメッセージを伝えても組織が動かないことがあるのですか?
正しいメッセージが伝わっても、参加者がその意味を自分ごととして受け取れていなければ、行動の初動は生まれにくいからです。
組織が動き始めるには、理解だけでなく、変化の必要性や向かう意味がその場で感情として立ち上がることが重要です。
Q2. 式典や全社会議では、何を重視すべきですか?
重要なのは、情報や方針を正しく伝えることだけではありません。
参加者がどの瞬間に自分ごととして受け取り、どの反応が会場全体で同じ方向の手応えに変わるのかまで設計することが望ましいです。
Q3. 「場の舵取り」とは何ですか?
「場の舵取り」とは、式典の進行やメッセージを用意するだけでなく、その場で起きる反応や相互作用が、組織の方向性と結びつくように導くことです。
単に場を設けるのではなく、参加者が組織の方向性を自分たちのこととして受け取れるようにする考え方です。
Q4. 感動的な演出を入れれば、組織の一体感は生まれますか?
感動的な演出だけでは、組織の一体感につながるとは限りません。
個人がそれぞれに感動しても、その反応が組織の方向性と結びつかなければ、組織の動きにはなりにくいからです。
大切なのは、感情の強さではなく、会場全体が同じ方向に進む感覚を共有できるかどうかです。
Q5. 式典を「説明会」で終わらせないためには、何を意識すべきですか?
式典を説明会で終わらせないためには、「何を説明するか」だけでなく、「参加者がどう受け取るか」を設計する必要があります。
具体的には、方針やメッセージが参加者にとって自分ごとになり、会場全体で同じ方向の反応や手応えが生まれる場にすることが重要です。
