第3回|理念は、なぜ式典で伝わらないのか ―暗黙知と共体験から考える―

マネジメント
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理念は説明している。それでも、揃わない

多くの組織では、理念やビジョンが丁寧に語られています。

  • スローガンが掲げられ
  • 経営方針が説明され
  • 式典や全社イベントで繰り返し共有される

それにもかかわらず、こんな感覚が残ることは少なくありません。

  • 理念は知っているが、行動は変わらない
  • 方向性が揃っている感じがしない
  • 式典が終わっても、空気が動かない

このとき、多くの組織はこう考えます。

「説明が足りなかったのではないか」
「もっと分かりやすく伝えるべきだったのではないか」

しかし本当にそうでしょうか。

共通目的は「説明」では成立しない

前回(第2回)で見たように、組織が成立するためには、

  • コミュニケーション
  • 貢献意欲
  • 共通目的

の3つが同時に成立している必要があります。

この中でも、最も誤解されやすく、
最も成立しにくいのが「共通目的」です。

共通目的は、

  • 掲げれば成立するものでもなく
  • 説明すれば理解されるものでもない

にもかかわらず、
多くの式典では「語ること」に力が注がれています。

問題は、熱量でも言い回しでもありません。
共有しようとしているものの性質が、
そもそも言葉だけで扱える種類のものではないのです。

知識には「2つの種類」がある

この問題を整理する上で、重要な示唆を与えてくれるのが
野中郁次郎氏 の知識論です。

野中氏は、組織における知識を大きく2つに分けました。

形式知

  • 言語化できる
  • 文書・スライド・マニュアルにできる
  • 説明や共有が可能

暗黙知

  • 言語化しにくい
  • 感覚・身体・経験に根ざしている
  • 説明だけでは共有できない

重要なのは、
組織の価値観・文化・方向性の多くは、暗黙知に属する
という点です。

理念やビジョンは、
言葉としては形式知に見えますが、
実際には「どう振る舞うか」「何を大事にするか」という
感覚的な判断基準に近い。

つまり、
暗黙知に極めて近い性質を持っています。

理念が腹落ちしない本当の理由

ここで、はっきりします。

理念が伝わらない理由は、

  • 説明が足りないからでも
  • 表現が抽象的だからでもありません。

暗黙知を、形式知として共有しようとしているから です。

暗黙知は、
どれだけ言葉を尽くしても、
説明だけでは共有されません。

形式知として提示された理念も、
体験を伴わなければ、
個々人の暗黙知として内面化されることはありません。

そのため、

  • スライドを増やしても
  • 表現を工夫しても
  • 回数を重ねても

「理解」は進んでも、
「腹落ち」は起きない

これが、
理念が「分かった気はするが、行動につながらない」
最大の理由です。

暗黙知は、どうすれば共有されるのか

では、暗黙知はどうすれば共有されるのでしょうか。

野中氏が示した答えは明確です。

暗黙知は、「共同化(共体験)」によってのみ共有される。

共同化とは、

  • 同じ空間に身を置き
  • 同じ時間を過ごし
  • 同じ行為をし
  • 同じ感情を経験する

ことによって起きる、
前言語的な理解の共有です。

ここでは、

  • 説明は必須ではありません
  • 言葉がなくても成立します

むしろ、

「あ、こういうことか」
「これは、うちのやり方だな」

という、
言葉になる前の納得が生まれます。

式典を「暗黙知の共同化の場」として捉え直す

この視点から見ると、
式典の意味は大きく変わります。

式典とは、
組織の暗黙知(価値観・方向性)を
再同期するための共体験の場

と捉え直すことができます。

本来、式典は、

  • 組織として何を大切にするのか
  • どの方向を向いているのか

を、言葉ではなく体験として揃えるための場です。

しかし現実には、

  • 聞くだけ
  • 見るだけ
  • 感情がバラバラ

という構造になりがちです。

この状態では、
共同化は起きません。

「体験すればいい」という話ではない

ここで、よくある誤解があります。

「体験型イベントをやればいい」
「感動的な演出を入れればいい」

これは不十分です。

なぜなら、

  • 体験がバラバラ
  • 感動の方向が揃っていない

場合、暗黙知は共有されないからです。

重要なのは、

体験が、
同時に・同じ方向で
共有されていること

ここで初めて、
前回整理した「組織要素の同時成立」と、
野中氏のいう「暗黙知の共同化」が
一つの線でつながります。

次の問いへ:なぜ「感情」と「場」が不可欠なのか

では、次の問いが立ち上がります。

なぜ、暗黙知の共同化には
感情が不可欠なのか。

なぜ、

  • 論理や説明だけでは足りず
  • 非公式な空間や空気が効いてくるのか。

次回は、

  • 人はなぜ論理では動かないのか
  • なぜ非公式の場が組織を揃えるのか

について変革論と組織論の視点から掘り下げます。

まとめ

  • 共通目的は形式知ではない
  • 暗黙知は説明では共有できない
  • 共同化=共体験が必要である
  • 式典は本来、暗黙知を同期する場である
  • 体験は「同時・同方向」でなければ意味を持たない

理念が伝わらないのは、
組織の問題ではありません。共有の方法を、取り違えているだけです。

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第3回|理念は、なぜ式典で伝わらないのか ―暗黙知と共体験から考える―

Q1. なぜ理念は説明しても伝わらないのでしょうか?

A. 理念は暗黙知に近い性質を持っており、言葉による説明だけでは共有されにくいからです。

Q2. 共通目的は、なぜ掲げるだけでは成立しないのですか?

A. 共通目的は、個々人が行動の基準として内面化して初めて成立するためです。

Q3. 形式知と暗黙知の違いは何ですか?

A. 形式知は言語化できる知識、暗黙知は経験や感覚に根ざし、説明だけでは共有しにくい知識です。

Q4. 暗黙知はどのように共有されますか?

A. 同じ時間・空間・行為・感情を共有する共体験(共同化)によって共有されます。

Q5. なぜ体験だけでも不十分なのですか?

A. 体験が同時に、同じ方向で共有されなければ、暗黙知は同期されないからです。

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